従業員に迷惑をかけない方法

売り手企業の経営者が抱える問題として、M&Aをするうえで従業員の処遇を現状のまま維持できるかどうかということがあげられます。苦楽をともにした従業員には売却後も継続して勤務してほしいと思うのは当然です。

このページでは従業員の不安を取り除き、できるだけ迷惑をかけずにM&Aをすすめていくための3つのポイントについて説明します。

  1. 従業員の雇用や待遇は維持できるのか?
  2. 従業員に情報を開示するときのポイント
  3. 買収後に統合チームを発足して組織マネジメントしていく重要性について

従業員の雇用や待遇は維持できるのか

実際のところ従業員の処遇を現状のまま維持できるかどうかは、売り手側の業績によって左右されます。業績が良くて利益が十分に確保できている状況なら従業員の待遇を維持することも可能だといえるでしょう。

しかし業績が芳しくなく赤字が出るような状況であれば、現状維持は難しいかもしれません。買い手側の立場としては、まず従業員の給与水準と生産性に整合性がとれるかどうかをチェックします。問題がなければ赤字の原因が人件費でなければ、従業員の待遇にメスを入れることはしばらくないでしょう。

技術や営業といったヒトという経営資源において、モチベーションの維持は必要不可欠です。買い手側としては処遇を下げることによるモチベーションの低下はなんとしても避けたいところです。
しかし、赤字の原因が人件費であった場合は、給与水準の見直しや人事制度そのものを改定することになるでしょう。

雇用維持は買い手との交渉次第

残念ながら従業員の処遇について、M&Aの条件に入れなければならないという決まりはありません。原則としてM&A実施後の従業員の待遇は買い手企業側の問題となります。
ただし、M&Aによる従業員の不安や動揺を緩和する目的で、期間限定で現状の雇用条件を維持することを契約に加える場合もあります。

雇用条件を契約に加えるときに経営者が心がけるポイントは次の3つです。

  1. 従業員に対して良い顔をしないこと
  2. 会社の将来にとって何がベストなのか考えること
  3. 長期的かつ全社的な視点で考えること

従業員の処遇を維持することが、会社の未来にとって最善の選択といえるのか?たとえ一時的に処遇が下がったとしても改革をすすめるためにはやむを得ないことなのか?この点について「無私利他の精神」で考えることが必要です。

従業員にM&Aの情報を開示するポイント

売り手企業の経営者にとって「いつ従業員に開示するか?」ということは、非常に頭を痛める悩みのひとつでもあります。M&Aにおける実務の基本としては「従業員への開示はできるだけ後にする」ということです。その理由は次のとおりです。

  • 従業員に対して開示する義務がないから
  • 従業員に対して予期せぬ誤解や不安を抱かせないため
  • 従業員に反対されてM&Aの交渉が成立しない恐れがあるから

ただし、従業員への開示を出来るだけあとにすることイコール従業員をないがしろにするということではないことは肝に銘じておく必要があります。

それでは従業員に開示する2段階のステップについて説明します。

幹部クラスへの開示

現場においてキーマンとなる幹部クラスの社員には、他の従業員より少し早い「基本合意後」のタイミングで開示するようにしましょう。
このときのポイントは幹部社員全員を集めて説明するのではなく、一人ひとり個別にじっくりと面談するということです。絶対に辞めることのないように説得もかねて誤解や不安を取り除きます。可能であれば買い手企業の経営幹部との面談や会食の場を設けるのも良いでしょう。

一般の従業員への開示

幹部クラス以外の一般の従業員に対しては、最終契約を結ぶ前日もしくは翌日に開示するのが一般的です。遅くとも契約締結の翌日の朝礼などのタイミングで買い手企業の経営者にも同席してもらうのがベストです。従業員の不安を取り除いてあげるためにもM&Aに至った経緯や今後の方針などを分かりやすく伝えることがポイントです。

従業員の不安を解消するために
売り手の経営者がすべきこと

売り手企業が自社の買収を告げられてまず思うことは次の3つがあげられます。

  1. 「自分のやるべき仕事の内容はどうなるのか?」
  2. 「今の給与や地位はどうなるのか?」
  3. 「転勤する可能性はあるのか?」

このように、従業員は会社のことよりもまず自分自身がこの先どうなるのかが心配になります。この不安を取り除いてあげるために次のようなことを伝えてあげましょう。

  • 仕事の内容、処遇、勤務地については当面は現状と変わらないということ
  • しばらくの間、売り手側の経営者も残るということ
  • 変更がある場合は労使間で個別に話し合ったうえで決めるということ
  • 大きなグループの傘下に入ることによってさらなる飛躍が期待できるということ

買い手企業にアナウンスする内容を事前確認したうえで、まずは変化がないという点と明るい未来を期待させるという点を説明してあげましょう。

統合チームを発足して組織マネジメントしていく重要性

買い手企業にとってM&Aによる買収交渉が成立した時点が本当のスタートだといえます。その理由は、売り手と買い手の両社が手を組む前に描いたような成果が得られる確率は30~50%だといわれているからです。この低いともいえるM&A成功の可能性を引き上げるには、買収した企業の幹部や従業員の協力が必要不可欠です。

統合チームを発足させる重要性

買収企業の従業員を巻き込むための最善策は、最終契約を締結してすぐに統合チームを発足させることです。売り手と買い手がお互いに協業で「M&Aによるシナジー効果をより早く発揮するためのベースを築く」という使命のもと統合作業に取り組みます。統合チームは次のようなテーマでそれぞれ分科会を設置します。

ビジョン・戦略策定

経営管理

組織・人事制度

情報システム・業務プロセス

これらの分科会とは別に、全社に向けて情報を発信するコミュニケーション担当を設置するのも良いでしょう。コミュニケーション担当は買収された側の従業員が抱えている不安を取り除いてあげることがポイントです。

双方の従業員から構成される統合チームは、買収されたという「被害者意識」を「当事者意識」へ変えるだけでなく過去から未来へと目線を向ける意味でもとても重要な役割を担っています。