中小企業のM&A 件数の推移と現状
中小企業経営者が後継者を探す時、M&Aを活用すれば選択肢は大きく広がります。M&Aは大企業同士で行うものというイメージは過去の話で、今は中小企業こそが事業承継や経営安定化の手段として行うべきなのです。
こちらではM&Aの件数や動向についてわかりやすく紹介します。M&Aが遠い世界の話でないことをご理解いただけるでしょう。
中小企業のM&A件数は、増加傾向
大手仲介業者3社の成約件数は、5年間で約3倍に
わが国におけるM&Aの現状は中小企業庁のデータから知ることができます。ここに紹介するグラフは東証一部上場である(株)日本M&Aセンター、(株)ストライク、(株)M&Aキャピタルパートナーズの成約件数がまとめられたものです。

このように2012年は3社合わせて157件だった成約数が2017年には526件まで増えています。わずか5年で3倍以上に増えているという事実はこれからM&Aを考える中小企業にとって希望となるでしょう。
もちろん、この3社以外にも有力なM&A会社はたくさんあります。公表されていない非上場M&A会社の成約件数も合わせればさらに多くなるでしょう。
現在、わが国全体のM&A件数はおよそ年間3000件ペースです。
子会社・関連会社を増やす中小企業が大幅に増加
M&Aの形としてよく知られているのは合併と買収でしょう。合併は会社が一つになりますが買収は買い手企業の子会社や関連会社となります。どちらも良い買い手企業が見つかることで経営の安定化や社員のキャリアアップ、事業拡大、強みを生かしたシナジーなど多くのメリットが期待されます。
とはいえ企業”買収”というくらいですから大企業しか買い手にならないのでは、うちのような小規模企業は相手にされないのではと考えがちです。しかし、データはそうでないことを示しています。


この2つのグラフを見ればわかるように、企業買収の主役は大企業よりも中小企業です。
まず、前者のグラフでは大企業よりも中小企業が積極的に子会社や関連会社を増やしていることがわかります。そして後者のグラフは売り手企業が大企業よりも中小企業に買収されていることを示されています。
つまり、売り手企業の規模が小さくても中小企業が買い手になってくれる可能性が十分にあります。
納得のできる企業承継をするためには、経営者の意思を汲み、人を大切にしてくれる買い手企業を選びたいものですね。
国内企業同士のM&A件数が増加した背景
M&Aの件数は20世紀末から増加傾向にあり、リーマンショックや東日本大震災の影響は受けたものの2017年には成約数3000件を超えました。これからもさらにM&Aが活発化していくのではないかと考えられます。

M&Aには国内企業同士のものと海外企業が相手になるものがあります。20世紀までは海外企業と国内企業のM&Aが多かったようですが、M&Aが活発になるとともに国内企業同士のM&A件数が飛躍的に伸びていることがわかります。
国内企業同士のM&A件数が顕著に増えた理由にはこのようなものがあります。
後継者不在や経営者の引退
後継者の不在は中小企業にとって大きな問題です。とくにオーナー社長が一代で創業した会社や家族経営で行なっている会社は後継者を見つけづらい傾向にあります。いくら創業者が素晴らしい人間であったとしても病気や年齢には勝てません。
事実、中小企業の半数が経営者の健康問題を理由に廃業しています。経営者は自分が引退した後についてもしっかり考えなくてはいけません。
かつて後継者といえば、社長の息子や娘がなることが当たり前でした。しかし子が自由な選択肢を望むことや、逆に創業者が子に継がせたくないと考えることから第三者への事業承継が増えています。
事業承継は株式譲渡を行うためそれに見合った資金力が求められます。さらに後継者の信用によっては保証人の地位を引き継げないことがあります。M&Aを選んだ場合は十分に資金力のある相手と取引できるためこのような問題を解決できるメリットがあります。
国からの後押し
中小企業が後継者を選べず大量に廃業する…これは国にとっても大きな損失です。中小企業庁の試算によると国内総生産にして22兆円もの損失となり、650万人の雇用がなくなるようです。
国としてもM&Aを活用して企業やそこにある技術を存続させることは課題というわけです。そこで国は税制を見直したり、全国に事業引き継ぎ支援センターを設置したりと後押ししています。
株式が分散している中堅企業の買収に関しては会社法改正でスクイーズアウトが認められた点がM&A件数の増加に関わっています。この制度改正によって90%以上の株式をもつ株主が承認なしに残りの株式を買い集められるようになりました。
経営立て直しの必要性に迫られて
先行きが怪しい、自力では企業を存続させられないという場合もM&Aが強い選択肢になります。なぜなら、あなたの企業に価値を見出さない相手が買い手とならないからです。逆にいえば、買い手がつく時点で企業再生の目があるということです。
買い手企業はただ経常利益だけを見るわけではありません。優秀な人材や魅力的な顧客リストがある場合は赤字でも債務超過が続いていても企業を買い取ります。
中小企業の場合は経営者が全ての株式を持っていることが多く、M&Aが成功すれば売却益が手に入り、さらに経営の不安や債務も無くすことができます。このようにM&Aは経営に苦しむ経営者とその会社で働く社員にとってメリットの大きな選択肢です。
中小企業M&Aの現状と事例
中小企業のM&Aについてのイメージを深めるため、ここでは2つの事例を紹介します。ぜひ御社の状況に照らし合わせながら考えてみましょう。
CASE
1
後継者不在によるM&A
(株式会社有村紙工)
M&Aの背景
株式会社有村紙工(以下”有村紙工”)はダンボールケースや紙器の製造をしている会社で、販売業者である有限会社ベル・トップ(以下”ベル・トップ”)をはじめ様々な会社との関係を築いてきました。創業46年を迎えてもなお順調な経営ができていたのですが、あるひベル・トップの社長から自身が病気であると告げられます。社長は引き継ぎ先を探していましたが様々な事情があり有村紙工に事業承継を打診しました。
有村紙工の社長はこれまでM&Aなど縁遠いものと感じていました。しかし、20年来の取引先であったベル・トップの廃業は年間3000〜5000万円の損失につながることや、シナジー効果の期待も踏まえM&Aを決断しました。
M&A後の変化
同じダンボールを扱う会社ということで、有村紙工はこれまで培ったノウハウでベル・トップの経営も対応ができました。また、ベル・トップは大半の仕入れを有村紙工から行なっていたため有村紙工としては新たな販売、運送の拠点を手に入れられたようなものでした。
ベル・トップの売り上げは月商700万円ほどで、最初の運営資金は有村紙工の取引行から借りて、経営を回しました。
結果としてこのM&Aは取引拡大につながり、3期目でついに債務超過の解消ができました。有村紙工は今後も業務展開の上で必要ならM&Aも検討するようです。
CASE
2
経営立て直しのためのM&A(株式会社生体分子計測研究所)
M&Aの背景
株式会社生体分子計測研究所(以下”生体分子計測研究所”)は生体分子測定器の販売と研究を行う企業で、国内だけでなく海外との取引も多い企業でした。一方譲渡企業である株式会社エルエイシステムズ(以下”エルエイシステムズ”)は医療用ソフトウェアや医療機器の販売をする会社で直接の接点はありませんでした。
M&Aのきっかけは偶然で「エルエイシステムズ社長の息子が、生体分子計測研究所社長の友人と知り合いだった」というものです。当時エルエイシステムズは創業者が逝去してその妻に事業承継されたのですがうまく経営できず、しかるべき承継先を探していました。社長友人は生体分子計測研究所とエルエイシステムズの事業は親和性が高いと考え、両社を引き合わせました。
生体分子計測研究所はエルエイシステムズを調査する中で、顧客層の類似がみられる点や、医療・薬剤関係の事業とシナジーが期待される点がメリットと考えていました。
M&A後の変化
M&A後に力を入れたのは、顧客関係の問題解決です。エルエイシステムズは海外取引先との取引における契約書の整備が不十分で、その修正にコストをかけました。また、国内の取引先との関係性は創業者の逝去から希薄になっていたようでその修復にも苦戦したようです。
しかし、お互いに誠心誠意話し合ったことやエルエイシステムが意思統一の測りやすい企業であったことがスムーズな業績回復に結びつきました。やはりM&Aは両者の良好な関係によって磐石となるようです。
M&Aによって得られたメリットは売り上げの平準化と為替変動への対策です。
まず、売り上げについては年末に集中する生体分子計測研究所が繁閑差の少ないエルエイシステムズを買収したことで資金口に余裕が出てきました。次に、エルエイシステムズは海外取引先からの輸入が多かったため輸出の多い生体分子計測研究所が気をつけるべき為替変動のリスクヘッジになりました。
どちらも当初は予想し得ないメリットだったようです。
このように企業同士のM&Aはうまくいけば双方にメリットがありますが、それを実現するための課題と向き合うことも大切です。M&Aの成果を最大化させ、失敗リスクを減らしたいなら社長の相談役となってくれるM&Aアドバイザリーの活用がオススメです。
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