成長戦略としてのM&A活用

M&Aを考える上で最も重要なポイントは、M&Aはあなたの会社の事業戦略を実現するためのひとつの手法であって、M&Aをすること自体が目的ではないということです。このページでは、上記を踏まえた上でM&A戦略をどのように立てればいいのかを説明します。

M&A戦略立案の4ステップ

M&Aを成功させるためには、企業のミッションやビジョンを明確にし、それらをベースとして戦略を策定していくことがとても大切です。ミッションは企業の存在意義ともいわれ、長期にわたって追及し続けなければならないものです。ミッションを実現するためにより具体的なカタチとして落とし込んだものがビジョンで、その設定期間は5年~10年が一般的です。具体的なM&A戦略の立案は、下記のようなステップを踏んで進めていきます。

STEP
1

会社のビジョンを実現した
状態と現状のギャップを抽出する

戦略的な意思決定をするために、まずビジョンを実現した状態と現状とのギャップの洗い出しをします。そしてこのギャップを埋める方法としてあなたの会社の経営資源をどのように活用できるかを考えます。ギャップを埋める方法は大きく分けて、自社のみで実行するか?または、M&Aを活用するか?の2つになります。

STEP
2

M&Aを活用すべきか検討する

戦略を実行するにはまず、あなたの会社の資源のみを活用したケースと、M&Aを活用したケースで比較することからはじめます。その際のポイントは「予算」「時間」「リスク」といったいろんな角度から総合的に比較検討すると良いでしょう。その結果としてM&Aをした方がミッションを成功させる確率が高いと判断すれば、M&Aの道を選択することになります。

STEP
3

M&Aを戦略として
活用できるか検討する

あなたが担当するM&Aチームが事業戦略をしっかりと理解している場合は、持ち込まれたM&A案件にもスピーディに対応することができます。逆にM&Aを戦略として活用できていないチームなら、あらゆる面で受動的となりM&Aをすることが目的となってしまいがちです。その結果、企業価値そのものがM&Aを実施する前より下がってしまう恐れもあります。

また、事業戦略が明確でない場合、持ち込まれた案件への決断が遅く、相手企業やM&Aアドバイザーに意思決定が弱い企業だと判断されてしまいます。それだけでなく、良い案件を紹介してもらえる優先順位が下がり、ライバル会社に出し抜かれる恐れも出てきます。

STEP
4

PMI(統合作業)を
見据えた戦略

M&Aはミッション実現に直結するということを忘れてはいけません。自社や相手企業のミッションがまったく違う方向を向いていたり、企業文化や風土が違う場合、M&A実行後のPMIで失敗してシナジー効果(相乗効果)が得られないことも十分考えられます。

買い手・売り手相互の戦略を理解する重要性

M&Aの担当者は、会社全体や各事業の基本戦略をしっかりと把握したうえで、相手企業の基本戦略を理解していくことが大切です。
自社および相手企業の戦略を理解するために、以下4つの理論を活用するとよいでしょう。

3つの戦略レベルについて

戦略には次の3つのレベルがあります。

①全社戦略

経営ビジョンを基に各事業の構成と方向づけをします。

  • 企業理念や事業領域の確認
  • 企業としての目標設定
  • 現状の分析
  • 経営資源の配分

②事業戦略

事業のライフサイクルや立ち位置を分析し方向づけをします。

  • 基本となる競争戦略
  • 事業目標の設定
  • 現状分析
  • マーケティング戦略

③機能戦略

研究や営業、物流、生産、購買といった事業の機能的要素の構成や方向づけをします。

  • 研究開発
  • HRM
  • 財務会計
  • バリューチェーン・サプライチェーン

ビジネスとライフサイクルについて

ビジネスにはライフサイクルというものが必ずあります。そのため長い期間にわたって同じビジネスモデルを継続させるのはとても難しいといえます。

事業を衰退させないためには、構造転換をするか新しいビジネスモデルを考える必要があります。もしあなたの会社の事業が成熟期にあった場合、その規模が縮小してしまうまえに、その収益を新規事業に投資することで現金を循環させることが大切です。

事業の選択と集中

事業の選択と集中を効率よく実現させるには、まずコア事業とノンコア事業とに分類します。ノンコアに分類された事業は、売却や縮小も視野に入れておく必要があるでしょう。全事業のなかでパフォーマンスも高く、他の事業との相乗効果が見込まれるようなコア事業は、継続して経営資源を投入することがポイントです。

全社戦略、事業戦略、機能戦略の3つをじっくり考えます。その考えをもとに事業ポートフォリオ(事業の基本構造)の選択と集中を自社でするべきか、M&Aを活用するかを選択するとよいでしょう。

戦略のゴール

戦略のゴールは、「長期的な利益の追求」です。そのゴールにたどりつくためには、ライバルとの差別化を図る必要があります。この考えを基にすればあなたの会社がとるべき戦略は次の3つになります。

①コストリーダーシップ戦略

たとえ低価格であっても利益が出せる仕組みをつくる。

②差別化戦略

コストを下げずに差別化を図り、他社よりも高く販売する。

③ニッチ戦略

ライバル不在の市場で利益を得る。

M&Aを実行するときに注意しておかなければいけないポイントは、会社や事業部がどのような基本戦略をとっているのかしっかりと理解したうえで、相手企業の戦略を見極めることです。
M&Aが失敗に終わる原因のひとつとして挙げられる「戦略的視点の甘さ」は、M&Aをすること自体が目的となり、M&Aによるシナジー効果や事業展開などの戦略を十分に考慮できていないことが原因です。
例えば、「なんでも良いから事業を拡大したい」と確実に儲かっている事業を買収しようとしたり、異業種参入のために、その業界であればどの会社でも良いからM&Aを希望する、という場合は赤信号です。

上記のような戦略性のないM&Aでは、途中でPMI(統合作業)がうまく進まなかったり、想定外の外的要因(法的整備や技術革新など)により事業が伸び悩んだりすることが多々起こりえます。その結果、失敗を積み重ね、せっかく買収した事業も売却することになってしまうケースも多いです。

上記のような失敗を避けるためにも、戦略を理解し、自社のどのような事業領域を強化するためにM&Aを行うのかという目的意識を明確にしておく必要があります。そうすることでM&A実施後のPMI(統合作業)をスムーズに進めることができるようになります。

買い手企業・売り手企業の目的

M&Aは事業戦略を実現するための手段であり、その戦略にそって進めていくことがとても重要です。買い手企業と売り手企業の双方がM&Aの目的として考えておかなかればならない項目は次のようになります。

Buyer

買い手企業の目的

①M&Aによる統合効果

  • 取引先との交渉力やボリュームディスカウントの強化
  • コストを共有することによる経費削減
  • 信用リスクの低減
  • 研究開発、営業、生産、マーケティングなどの各部門の効率化
  • 採用効率の拡大

②時間やノウハウに投資することによる効率化

  • 新規事業に参入する際のノウハウやスキルなどを構築する手間が省ける
  • 資本を投入したその日から活動が可能

③市場規模の拡大と規模経済の獲得

  • 初期段階の市場で優位に立てる
  • 成熟した市場で過酷なシェア争いを回避し生き残っていくことができる

Seller

売り手企業の目的

①将来的な不安や後継者不在の解消

  • 経営者の高齢化や後継者不在という問題が解消できる

②事業の選択と集中によるビジネスの再構築

  • 順調な事業を存続し、不調な事業を売却するという選択と事業の集中ができる

③経営の安定化

  • 大手企業の傘下となることで経営を安定化が図れる
  • 成熟した市場での競争を避け、業務資本提携により大手となれる

④ハッピーリタイヤや別のビジネス展開

  • 企業を売却することで豊かな老後を過ごすことができる
  • 新たな事業を始めることが可能となる

M&Aの担当者は、M&Aをすることが目的となってしまわないようにくれぐれも注意しましょう。そのためには事業戦略を十分に理解したうえでベースとなる戦略とその目的をいつも把握しておくように心がけておくことが重要です。