M&Aの手法・スキーム

M&Aで失敗してしまう理由の80%は、売り手企業による最適なスキーム作りができていないことによるものだといわれます。M&Aを成功へと導くためには、まず売り手企業がさまざまな種類のスキームから最適なスキームを選択して作成することがポイントです。
買い手企業としては、そのスキームに対応できるだけの理解力を持っていることが重要になってきます。M&Aの失敗原因の多くを占めるスキーム作りを無事クリアーするには高度な専門知識と経験が必要です。

M&Aスキーム

M&Aのスキームには、下図のようにいくつかのパターンがあります。
まずM&Aは、その対象となる企業の支配権を得る狭義のM&Aと、支配権を獲得しない場合を含める広義のM&A・提携(アライアンス)に分かれます。

広義のM&Aには資本移動の有無や合弁会社を設立するといったパターンがあります。
狭義のM&Aには複数ある企業を一つにまとめる合併や、株式交換や株式移転、株式分割があります。これらの株式譲渡を対価とする合併や交換、移転、分割などのスキームは大企業同士のM&Aで多く使われ、中小企業同士ではあまり使われることがありません。そのかわり中小企業などでは、現金を対価とする株式譲渡や新株引受、事業譲渡、会社分割といったスキームが使われることがほとんどです。
ここでは、中小企業のM&Aでよく用いられる「株式譲渡」「新株引受」「事業譲渡」「会社分割」について、詳しく説明していきます。

株式譲渡

日本国内のM&Aでもっともオーソドックスで、その多くを占めるスキームが「株式譲渡」です。売り手である株主が保有する株を、買い手企業に売却して現金を受け取ることで買収を成立させます。売り手側は買い手企業の子会社になりますが、株主が替わるというだけで資産や知的財産、従業員などを残して事業を継続することができます。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡には、下記のようなメリット・デメリットがあります。

メリット
  • 売り手は取引の結果として現金によるキャピタルゲインを受け取ることができる。
  • 株主総会や債権者保護などの法的な手続きが簡便である。
  • 事業譲渡と比較しても手続きが容易にできる。
  • 原則として行政上の許認可や取引上の契約が継承される。
デメリット
  • 法人格をそのまま引き継ぐので、売り手も認識していない簿外債務や、不利な契約、不正な雇用などの問題まで、買い手が引き継ぐ恐れがある。

新株引受

対象となる会社が発行する株式を買い手が引き受けるスキームを新株引受といいます。これによって買い手企業が過半数の議決権を獲得することになるので、株式譲渡と同じ効果があります。

しかし株式譲渡と違って、買い手が支払う対価は売り手ではなく対象会社に入金されます。そのような理由から、新株引受は対象企業の資金不足による救済や支援策として採用されるケースが多いといえます。

新株引受のメリット・デメリット

新株引受には、下記のようなメリット・デメリットがあります。

メリット
  • 上場企業の場合は取締役会決議で第三者割当株式または新株予約権の発行が可能である。
  • 有利な発行価格でない場合は、既存株主の同意がなくても買収することが可能である。
  • 株主兼代表者が引き続き会社に留まるときのインセンティブになる。
デメリット
  • 買い手企業は100%の支配権を得ることができない。
  • 新株発行価格が適正かつ公正な価格かどうか問題となる可能性がある。
  • 一定割合の保有数を得るために、株式譲渡と比べて多くの資金が必要となる可能性がある。
  • 対価を受け取るのはオーナーではなく会社であるため、売り手にとってハッピーリタイアにならない。

事業譲渡

事業譲渡は売り手企業側の事業部門の一部、または全てを譲渡するスキームのことです。採算のとれない部門を切り離したり、会社の規模を縮小するようなときによく用いられます。

事業譲渡のメリット・デメリット

メリット
  • 買い手企業は自社にとって必要な資産や負債を選んで引き継ぐことができる。
  • 譲渡対象となる事業のみに契約が履行されるため、未払い残業代などの簿外債務まで引き継いでしまうリスクがない。
デメリット
  • 事業譲渡した売却益は会社に支払われるのでオーナーが受け取ることができない。
  • 譲渡対象資産の引き継ぎなど、契約更改の手続きが面倒である。
  • 行政上の許認可や取引上の契約が継承されないので、個別に再契約をする必要がある。

会社分割

譲渡対象の事業を新しい会社に一旦移転したあとに、買い手企業側がその株式を得ることで対象事業を獲得するスキームのことを会社分割といいます。手続きが簡単な反面、簿外債務を引き継ぐリスクがある株式譲渡と、簿外債務のリスクがない分、手続きが面倒な事業譲渡のちょうど中間に位置するスキームです。

会社分割のメリット・デメリット

メリット
  • 包括継承なので事業譲渡と比べて契約関係の手続きが簡単である。
  • 相手企業への転籍が必要な従業員の同意をとる手間がいらない。
  • 買い手が簿外債務などを引き継いでしまうリスクが低い。
デメリット
  • 行政上の許認可の失効や取引先との契約への抵触などの確認が必要である。
  • 株式譲渡や事業譲渡と比べて法的手続きが複雑である。

スキームを検討する際の留意点

ここまでで取り上げてきたさまざまなスキームを選択するうえで、ポイントとなる留意点を4つご紹介します。
下記の4つの留意点を抑えることでM&Aの目的を明確にし、M&Aアドバイザーともよく相談しながら最適なスキームが選定できるようにしましょう。

1.経営権を取得するのか?業務提携を重視するのか?

買収する目的が経営権を取得することによる事業コントロールなら、株式を100%取得することが望ましいでしょう。その場合は過半数の議決権を獲得する必要がありますが、業務提携が目的の場合は、3分の1程度の持ち株比率を獲得すれば特別決議を否決することができます。

2.買収対象企業の財務状況はどうか?

対象となる企業が債務超過や簿外債務を抱えている恐れがある場合は、譲り受ける負債の選定が可能な事業譲渡のスキームを検討しましょう。

3.統合作業をスピーディに行うか?しばらく様子をみるか?

組織の統合を速やかに実行するなら合併や事業譲渡によって相手企業と一体化させることを視野に入れることをおすすめします。一方で、相手企業の経営方針を継続する場合は、株式譲渡や50%以上の新株引受や株式交換のスキームを検討すると良いでしょう。

4.売り手側の対価の希望と買い手側の資金力のバランス

売り手が対価の条件として現金を希望しているようなケースでは、株式譲渡を検討します。
もちろん事業譲渡や新株引受も現金で対価が支払われますが、受取先が対象会社となるので注意する必要があります。