会社を売る前に知りたいM&Aの方法
中小企業経営者の方なら、後継者問題、雇用問題、事業の悪化など悩むことは沢山あると思います。
それを解決するための手段としてM&Aがありますが、実際どのように進めていくのか検討もつかないですよね。
そんな経営者の方に会社を売る前に知っておいて頂きたいM&Aの方法を紹介していきます。
会社を売る方法とは
生涯現役でいたいけれど、年齢的に社長でい続けるのが難しい。経営不振で会社の継続が難しい。そんなとき、会社を畳んでしまう前に「会社を売る」という選択肢を考えてみませんか?
あなたの会社を買ってくれる経営者がいれば社長を引退した後も会社を存続させることができるし、会社を売った利益でセミリタイアすることも可能です。
まずは「会社を売るってどういうこと?」という疑問にお答えします。
会社は法務局での登記で成立するため、会社を売るということを建物や仕事道具など目に見える資産を売却することのように思われる方がいらっしゃいます。
しかし会社とは法人のことであり、形がありません。会社を売るということは会社の構成単位である「株式を売る」ことに他ならないのです。
会社を売ると、その結果として買い手に経営権が移譲されます。会社を売ることをM&Aと言いますが、この言葉には「合併と買収」という意味があります。
なぜ会社を売る必要があるのか
経営者にとって、会社は命の次に大切なものであることが多いです。しかし大切だからといって会社のために全てを懸けられる方も多くはありません。会社を売るということは、経営者だけでなく取引先や従業員、そして買い手企業に恩恵をもたらします。 ここではどのような必要に迫られて会社を売る経営者が多いか紹介します。
後継者問題
多くの中小企業が抱えている後継者問題。これは本当に深刻です。かつてのように家業は絶対に世襲するものという時代ではないし、何より経営の難しさからそれを望む経営者も減ってきています。そして後継者を決めずに何年も経った結果、今では中小企業経営者の半分が健康問題を理由に廃業しています。後継者が見つからないと、物理的に会社を存続できなくなるのです。 そこで急遽経営者の家族や従業員に引き継がせようとしても後継者教育には時間がかかるし、株式を買うお金どころか贈与税さえ払えないことが多いです。 このような場合でも資金力がある第三者の需要があればすぐに会社を売ることができます。経営手腕のある方であれば安心して会社を任せられるでしょう。
経営安定
M&Aで後継者問題を解決できれば間違いなく今後の経営が安定します。しかし後継者を探す前から経営不振に陥っている場合も珍しくありません。毎年赤字続きで債務を返すのが精一杯という状態では今後の見通しが立たないし経営者の精神的ストレスも計り知れません。 このような場合も会社に何らかの資産価値を見いだせればM&Aが成立する可能性があります。未来のビジョンをしっかりと作れる経営者に会社を移譲することで経営の立て直しが期待できるというわけです。 特に、大企業の傘下に入れる場合は資本が大きいため会社を守れる度合いが強くなります。
従業員雇用
経営者本人が、自身の代で満足して廃業を考えることもあるでしょう。ここで考えて欲しいのは従業員の都合です。会社をたたむということは従業員の生活の糧がなくなることを意味します。転職も簡単ではありません。できるだけ雇用を守りたいですよね。 M&Aで株式を売ればその時点で会社のオーナーが移ります。ところが従業員は会社と契約しているため一旦解雇となることはありません。これまで通り労働基準法で守られるのです。
老後の安心
老後を安心して過ごすには資金が足りないというときも、会社を売る必要があります。できる限り早めに行動することでお金の心配を減らせるでしょう。 ある程度お金に余裕がある場合は、預貯金に会社の売却益を上乗せしてセミリタイアができるかもしれません。
会社を売るためにどんな準備が必要か?
会社の売買は非常に大きな買い物です。入念な準備が肝心となります。こちらでは会社を売るために必要な準備について簡単に紹介します。
スケジュールを組み立てる
M&Aのスケジュールをしっかり組み立てましょう。会社を売るまでには、買い手企業の選定や交渉、契約というプロセスが必要となりそれと同時進行で会社売却に際する法的手続きや従業員への根回しが求められます。また、M&Aが終わった後も会社の経営が安定するよう元経営者が顧問として招聘される場合も考えられます。会社売却後の統合作業まで綿密にスケジューリングしましょう。
これでも自社から後継者を出すより短期間での会社売却が可能です。身内への事業承継の場合は後継者育成の期間がプラスされるためです。短くとも2年間の余裕を見るべきです。第三者に売却する場合でも数ヶ月の余裕は持っておきたいところですね。
自社の価値を明らかにする
自社の価値を明らかにしなければM&Aはできません。仮にできたとしても買い手企業の言い値を受け入れることになるでしょう。自社の資産状況や営業成績、そのた買い手企業に有利な交渉材料を洗い出し会社売却の利益を最大化できるようにしてください。 自社の価値が明らかにできれば、自信を持ってM&Aの交渉に臨むことができます。
内部環境を整える
会社を売るときは内部環境を整えることが必須です。会社の価値を高める上でも重要ですが、買い手企業にとっては思わぬトラブルの元になります。中小企業の多くは管理部門が後回しになりがちで不正会計が見られたり、会社のガバナンスが不十分であったりするケースが散見します。 このような状態を放置したままM&Aに臨むと買い手企業から経営にだらしがない会社、買収のリスクが高い会社と見なされるので軽く考えないようにしてください。 少なくとも法的な不備が一切ない状態にすることが前提です。 この内部環境を買い手企業の要請で調べる作業をデューデリジェンスといいます。
外部環境を調べる
外部環境とは社外において会社の売り上げや利益に関わる要素のことを言います。マーケットの動向や立法府および行政の動き、社会全体の流れなどがこれに当たります。このM&Aをするにあたって味方につけられる要因が多く、かつそれが優位であるほど企業価値を高められるでしょう。当然、競合他社につてのリサーチも欠かせません。
会社の売り上げは会社だけで作れません。これまでうまくいっていた事業も外部環境の変化で傾くことは珍しくないものと心得ましょう。
M&A会社の選定
M&Aに必要な行程は多くしかも複雑です。それにM&Aは人生で何度も行う作業ではありません。そこで多くの経営者は自身のパートナーとなるM&A会社の選定を行います。M&A会社はM&A交渉についての資料作成や交渉の代行、買い手企業とのマッチングなど幅広い業務に精通した存在です。 御社に合っているM&A会社を選べることがM&Aの成否に大きく関わります。
会社の売るためのM&A仲介会社
もちろん、M&A会社ならどこを選んで良いというわけではありません。それぞれのM&A会社には得意分野、取引企業、仕事へのスタンスなどの差が見られます。会社の規模や母体によって大きく金融系、事業コンサル系、仲介系の3タイプに分かれます。まずはこの3種類についての理解を深めましょう。
金融系M&A
金融系M&Aとは「M&A事業を行なっている金融会社あるいはその傘下にあるM&A会社」をさします。メガバンクや大手証券会社など有名企業が名を連ねていることが特徴です。金融系のM&A会社は手広く事業を行なっているため取引先企業の名簿も膨大です。また、資本力があることも知られています。 金融系M&A会社の強みは大きな規模を生かしたM&Aのマッチングで、その反面具体的なM&A手続きを得意とするわけではありません。よって、金融系M&A会社を使うべきはM&Aを数回行える企業体力を持ち、ある程度の手続きを自分で行える大企業です。国際間の大きなM&Aもその裏に金融系M&A会社の存在があるのです。
逆に「金融会社だからすぐに買い手を紹介してもらえそう」という希望を持っていくと期待はずれになるでしょう。そもそも成約金額の低い案件を取り扱わない場合もよくあります。
事業コンサル系M&A
事業コンサル系のM&A会社は、会社の業務について手広くアドバイスや代行可能な会社で「M&Aも任せられるコンサル会社」という表現をしても差し支えありません。M&Aの難しさから税理士事務所や会計士事務所が事業コンサル系M&A会社になるケースが多いですね。 事業コンサル系M&A会社の特徴は経営の悩みや経営者のビジョンを聞き、それに合わせた候補選定や交渉を行うところにあります。フットワークが軽い中小規模のM&A会社が多いことも特徴的です。 事業コンサル系M&A会社の強みは中小企業の課題を何でも相談できる点、そして顧客の利益最大化に注力する点にあります。事業コンサルタントとして「会社を高く売り、取引後も幸せを生み続ける」ようなM&Aを目指します。難解なデューデリジェンス対策もバッチリです。 このようにサービスが手厚い一方で最良の買い手を探すためには時間とコストが伴うという注意点があります。「とにかく短期間で会社を売り払いたい経営者」にはおすすめできない選択肢と言えます。
仲介系M&A
仲介系M&A会社はM&Aの仲介に必要な業務に長けたM&A会社です。一般的に知られるM&A会社はこの分類に当たります。ある意味で最も純粋なM&A会社たちと表現できます。 仲介系M&A会社の仕事は買い手企業をリストアップするところから、契約を締結するところまで。それ以外の業務については基本的に行わず、提供する場合もオプションという位置付けです。
仲介系M&Aの特徴はM&Aそのものの技術に長けていることです。売りたいというニーズがあれば幅広いネットワークを駆使して買い手企業を迅速に見つけます。そして、M&Aの手続きで手間取ることもありません。 仲介系M&A会社の強みは大抵の会社なら短期間で売却できるところにあります。売れるような状態にするのではなく、「今の状態のまま買ってくれる企業を探す能力」に優れています。たとえ小規模の会社でも積極的に受け付けています。
ただし、その一方で企業の価値向上などの戦略立案、M&A締結後のアフターフォローが薄いです。成約が早くても成約額で大きく損をする場合も覚悟が必要です。 仲介系M&A会社を使うべきは会社の価値向上が期待できず、最短で企業を売り払いたい経営者です。ある程度の余裕があるなら事業コンサル系M&A会社を使った方が良いでしょう。
会社を売る時に必要な手続きと流れ
会社を売る方法であるM&Aがどのような流れで進んでいくのか、簡単に説明いたします。
1M&A戦略の策定・目的の明確化
M&Aの理由と目的を明確にしましょう。会社を売って何を得たいのかわかればそれに合わせた戦略の立案ができます。また、チームの意思疎通で失敗することも減ります。
2M&A仲介会社の選定
M&Aで大切なのはパートナーとなる仲介会社の選定です。御社の規模やニーズにあったM&A会社を選びましょう。当サイトでは主要なM&A会社について紹介しております。
3NDAとFA契約の締結
M&A会社とNDA(Non Disclosure Agreement)といわれる機密保持契約と、仲介会社が行う業務の範囲や報酬などを決めるFA(ファイナンシャルアドバイザリー)契約を締結します。これらはM&A会社に必要な権利と義務を与えるための契約です。
4M&Aスキームの決定
M&Aを進めていくにはスキーム(戦略)を決定する必要があります。どのようなタイプの手続きを、どうやって進めていくのか。正しく選べることもM&A会社の実力が問われます。
5事業分析・業界調査
事業分析・業界調査 M&Aは利益を最大化してこそ意味があります。売却益はもちろん、会社を売却した後のメリットについても見通しを立てるべきです。M&Aに成功すると単純な合併では得られないシナジー効果が発揮されます。シナジー効果が起きる組み合わせであることと、それが起きやすい環境であることはM&Aを有意義にします。
6企業名を非公開とした紹介資料の提示
ノンネームシートはM&Aの意思があるかどうかを確認するためのものです。相手企業に特定されずお互いを見定めることができます。
7ネームクリア
ノンネームシートに問題がなければネームクリアを行います。企業名やさらなる情報を相手に開示する手続きです。段階を踏むことで不用意な秘密漏洩を避けられます。
8企業概要書の提示
企業概要書は買い手に詳しく自社を知ってもらう書類であり、売り手企業が自社を見つめ直す書類でもあります。。
9トップ面談
まずはトップ同士が面談を行います。初回は儀礼的な意味合いが強いですが中小企業同士だと最初から本質的な交渉が展開されます。
10意向表明書の提出・基本合意書の締結
条件を示した意向表明書と基本合意書が共有され、基本合意書に締結がされると独占的なM&A交渉が始まります。この段階で殆どの内容が合意されます。
11デューデリジェンスの実施
デューデリジェンス(買収監査)は、売り手企業の情報を精査するためのプロセスで第三者たる監査法人に任せることが多いです。
12最終譲渡契約の締結・クロージング
デューデリジェンスでも問題がなければいよいよ最終譲渡契約書にサインされます。
13PMIの実施
PMI(Post Merger Integration)とはM&Aを実施したあとの統合作業のことです。この統合作業に自信があるなら当事者同士で大丈夫ですが、ここがM&A失敗の原因となることもあります。初めてのM&Aなら事業コンサル系M&A会社のサポートを受けることが望ましいです。
会社を売る手段は何があるか
会社を売る方法とはM&Aのことですが、M&Aのスキームにはいくつかの種類があります。これだけたくさんの種類をすべて把握するのは難しいし、中には大企業にしか向かないものもあります。
こちらでは中小企業のM&Aでよく使われる株式譲渡、新株引受、事業譲渡、会社分割の4つについて解説します。
株式譲渡
株式をそのまま渡す手続きを株式譲渡と言います。株式譲渡はM&Aで最も基本的な手続きです。株式のすべてを渡すことが一般的で、売り手はすぐに現金を得られるメリットがあります、また税金も個人が利益を取得するため所得税と住民税のみです。
新株引受
新株引き受けは株式を新たに発行してその大部分を買い手企業に譲渡する方法です。株式譲渡と異なり売り手企業の経営者が株式を持ち続けることが前提で、インカムゲインも得られます。ただ、M&Aの売却益は個人でなく法人に入金されます。なぜなら新株は誰のものでもないからです。個人の所有する株式を売る株式譲渡とこの点が明確に違うためご注意ください。
新株発行は手続きが多少面倒です。
事業譲渡
事業譲渡は会社のある事業についての財産と権利を売ることです。株式を売るわけではないため厳密に言えば「会社を売る」手続きとは異なります。しかし、これもM&Aの一つとされています。事業譲渡は会社法で事業の範囲が決められていないので自由に契約書を作れるメリットがあります。その一方ですべてを決めなければいけない煩雑さや従業員の転籍が必要なこと、事業譲渡の所得が法人に入金される点は注意が必要です。
会社分割
事業のみを譲渡する事業譲渡と異なり、会社分割はある事業を新設した会社または買い手企業に包括承継します。会社分割は本来組織再編に使われる手続きで、M&Aのスキームとしては事業譲渡の煩雑さを減らすために用いられますが会社分割は法的手続きの難易度が高いです。事業と株式の両方を渡したい場合は会社分割を使います。
参考 https://ma-instructions.com/basis/method/
会社を売った時のメリット・デメリット
会社を売ったときのメリットは次の5つです。
- 大きな現金が入る
- 債務から逃れられる
- 後継者問題が解決する
- 従業員の雇用が守られる
- 創業者の功績が残る
会社を売るメリットは何と言っても大きな現金が入ることです。安くても数百万円、高ければ数億円という取引になります。また会社の権利義務を譲渡することから債務の連帯保証契約も引き継げる点が嬉しいですね。M&Aが成立した後は、新しい経営者が後継者となり従業員の雇用を守ってくれます。創業した会社が後世に残ることは経営者の冥利に尽きるのではないでしょうか。
一方で会社を売ったときのデメリットは次の5つです
- M&Aのせいで会社が崩壊するかもしれない
- 従業員からの信頼を失うかもしれない
- 会社を売ったことによる喪失感
- PMIに思った以上の時間がかかる
- インカムゲインが得られなくなる
会社を売ったときのデメリットはメリットに比べれば小さなものです。会社を売ったことによる喪失感については一定の期間名誉職になることである程度解決できます。しかしM&A会社選びを間違えると戦略立案やPMIの失敗で会社が崩壊したり、従業員とのコミュニケーション上手くいかなかったりするリスクが発生します。
株式を売ることで配当を得られなくなることもデメリットと言えるかもしれませんが、大きなキャピタルゲインが得られるのでそこまで問題にならないでしょう。
どうやったら高く売れるか
会社を売るからにはできるだけ高く売りたいものです。ここでは会社を高く売るために最低限知っておきたいことを紹介します。
まず、会社の値段は純資産額やおおむね5年分の経常利益を参考に決められます。類似の企業がある場合はその金額を参考にすることもあります。いずれにせよM&Aの成約金額は「会社の資産価値および、会社が今後生み出す価値」によって決められています。
ということは、企業の価値を高めるとしたら純資産を増やすか今後生み出す価値を売り込むことが必要です。
純資産を増やすためには利益を増やして負債を減らさなければいけません。まずは会計面での不明瞭を明らかにしてください。そしてお金の使い方を改善していきましょう。しかし、これでは資産状況が良くなるまで数年はかかってしまうでしょう。
そこで今からでも売るなら今後生み出す価値を売り込むしかありません。まずは営業利益です。赤字続きでも営業利益が黒字ならその事業に価値を見いだせます。次に、会社で働いている人材や顧客リスト、特許技術、市場など「買い手企業が必要としているもの」を調べます。ニーズに合致するものがあればそれを価格に上乗せできる可能性があります。
まとめ
会社を売るということはなかなか考えるものではありません。しかし、どれだけ素晴らしい経営者でもいつかは引退する日が来ます。できれば円満に引退したいものですね。
会社を売る方法として有効なM&Aは信頼できる会社選びが最重要です、ぜひ当サイトより選りすぐりの会社をチェックしてください。
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